お知らせ

2月29卒業式での学校長式辞

20.02.29

大阪成蹊女子高等学校 第72回卒業証書授与式式辞


春の息吹が感じられる今日、大阪成蹊大学武蔵野学長先生、各後援団体の御代表、PTA役員の皆様のご臨席を得まして、大阪成蹊女子高等学校第72回卒業式を挙行できますことに、心から感謝申し上げます。
現在、新型コロナウィルスの感染拡大が懸念される中、3年間の集大成となる卒業式を実施させていただきます。
しかし、例年と異なって大幅に短縮することになりましたが、私たち教職員は生徒の皆さんの卒業を祝う気持ちに、何ら変わりはありません。
卒業される510名の皆さんを、心からお祝いいたします。

さて、本校は、伝統ある女子高校として、女性としての生き方、女性としての品格の形成を重んじて指導してまいりました。
卒業生の皆さんには、時には厳しい指導もありました。
しかし、私たちは皆さんへの愛情を忘れず、全力を挙げて導いてきたと思っています。
そして今、自信を持って世に送り出すことは、私たち教職員の大きな喜びになっています。

今年の夏、東京オリンピックで日本全体が大いに盛り上がると期待されています。
今は、無事に開催されるのかという不安が広ありますが、私はオリンピックに続くパラリンピックに大きな期待を抱いています。
身体や視力などに障害のある選手が、全力で頑張る姿に感動し、生きる力を得ることができると期待しているからです。

私の知り合いである兵庫県立盲学校の校長先生から聞いた、ある女子生徒のお話をします。
この生徒は、NHKの青春メッセージでとり上げられました。
冒頭の彼女の言葉を読みます。
『私は今、青春を謳歌しています。しかし、私は生まれてから普通に物を見ることができません。
普通、生まれたての赤ちゃんは目を開きませんが、私はすぐに目を開き、瞳の真ん中に小さな星があったのです。
米粒にも満たないその星が、私を生涯の視力障害者としたのです。
その後、暗い環境で生きていくことになりました。
5歳になって盲学校に入りましたが、私が家の外に出ると「泣き虫のもやしっ子」とあざけられ、打ちのめされた日々でした。
しかし、希望の光が見えたのはスポーツでした。』というメッセージで始まります。

彼女は、視力はなくても、強い心を持っていました。
文字や漫画が読めなくても、自転車に乗れなくても、美しい夜空の星が見えなくても、一度しかない人生、自分にできることは何でもやってみよう。
チャレンジしてみよう。
そして、こんな自分でも生んでくれたお母さんに感謝し、お母さんのためにも、頑張って生きようと決心したのです。
それから、小さい体で体力づくりに打ち込みます。
六甲連山の56Kmを歩き、高山病と戦いながら富士山を登頂します。
そして、一番の夢であった、ホノルルマラソン42.195Kmに挑戦します。
視覚障碍者のマラソンは、伴走者と一緒に2人で走ります。
自分の妹の手首をゴムひもで結び、土砂降りの雨の中を走ったそうです。
30Kmをすぎたところから、辛くて何度も何度も止めようと思ったそうです。
しかし、ここで止めると楽になるけれど、後できっと後悔する。歩いても、這ってでもゴールしようと、泣きながら走ったそうです。
そして、沿道で応援してくれる人々の暖かい心に応えて、走りぬくことができました。
一人でできないことが、姉妹の力、多くの人々の励ましで夢が実現できました。
想像をはるかに超える苦しさと辛さでしたが、このフルマラソンの完走は、その後の人生で大きな自信となったというのです。

私は、東京パラリンピックで世界中の選手の頑張りを見たいと思っています。
出場する選手一人ひとりには、他人から見えない苦労と努力があったに違いありません。
そして、人が頑張るというのは、選手だけの話ではありません。
今日、卒業する皆さんも、ここに至るまでの間、他人には見えない努力と頑張りがあったと思っています。
本校での様々な行事にチャレンジし、家族、先生、友人たちの多くの人に支えられ、クラスの仲間と一緒に学び、成長してくれました。
これからの長い人生、皆さんには更に多くの困難、辛さがあるでしょう。
しかし、自分を支えてくれる人を信じて、努力し、困難を乗り越えて欲しいと思います。

日本の歴史上、幕末の時代、大きな影響を与えた教育者に吉田松陰先生がいます。
先生は、人生では楽な道を追い求めるのではなく、あえて困難な道を選ぶことの大切さを「艱難(かんなん)汝を玉にす」という言葉で教えてくれています。
艱難とは苦労や困難です。艱難を逃げず、克服することで、あなたは玉になり、立派に光り輝くと教えてくれています。
皆さんが、本校卒業した後、この視覚障害であった選手と同様に、何事にもチャレンジし、努力することで困難を乗り越え、光り輝くすばらしい玉になると私は信じています。
「艱難(かんなん)汝を玉にす」を忘れないでください。

いよいよ、お別れの時がきました。
これからの長い人生を主体的に生き、努力し、素晴らしい人生を歩まれることを期待しています。
改めて、ご卒業おめでとう。そして、皆さん、さようなら。
 

令和2年2月29日

大阪成蹊女子高等学校長 紺野 昇

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